親愛なる森
「ありがとう、ございます……」
「いいえ。僕は医者でね、こんなものもカバンから出てくるよ」と言い、カバンから聴診器を取り出し、彼女の胸にあてた。ん?どこも悪くない。
「あの、ほんとにありがとうございました」彼女の長い痛んだ黒髪は、メガネの上にかかって顔全体を隠していて、表情が読み取れない。
「うん、大丈夫ですよ、お気をつけて」僕はそう言い残し、森の入口へ向かうことにした。
「あの、お名前は……」
「ミヒャエル・アーベラインです」
「……ありがとう」
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