雨上がりと美少年
ある6月の朝、学校で私は恭くんが窓の外を見ているのを目にした。
恭くんは中庭を見ていた。
つまんなそうに。多分それは美少年だからそう見える。
「何してるの?」
私が聞くと、恭くんはこちらを振り返った。
振り返った顔は、ぞくぞくするほどロマンチックだ。
「別に」
恭くんは言った。
これは恭くんもだし、恭くんじゃない人もだが、男子達ってどうしてよく別にって言うんだろう。
「雨が降らないかと思って」
「そろそろ梅雨だからね」
「傘さすの面倒くさい。濡れるし。」
「降らないと良いね」
美少年と梅雨はよく似合う。
私は美少年が大好きなので(普通に、平たい意味で)、よく恭くんに話しかける。
恭くんは、美少年だから話しかけられるのに、憶測だが、多分慣れている。
「本当に降らなきゃ良いけど。山井さん、傘持ってきた?」
恭くんは私の事を山井さん、と呼ぶ。
他の男子たちみたいに呼び捨てにしない。
そこも私に彼がロマンチックに思える理由のひとつだ。
「持ってきてるよ」
私が言うと、ふーん、と恭くんは曖昧に返事した。
窓を見つめる瞳が印象的だった。
酷くつまらなそうな。
四時間目が終わって給食の時間になった。
今日はシチューだ。
私の前の席の男子はよく食べる人で、給食を2杯もおかわりしていた。
私が目で恭くんを探すと、恭くんは、窓側の席で黙ってシチューを食べていた。
目があったので私がピースサインをすると、恭くんはてのひらをパーにして開いてみせた。
「山井、また平山を見てる」
「だって、きれいなんだもん」
「面食い。将来苦労するぞ」
「見てるだけだよ。触らないもん。」
恭くんは聞いているのか聞いていないのか、黙ってシチューを食べていた。