雨上がりと美少年
次の日。
恭くんはまた窓の外を見ていた。
ロッカーの前で、ぼうっとした様に。遠くを見る目で。
なんとなく抽象画が連想された。
「恭くん」
「山井さん。どうしたの?」
「何を見てるの?」
「何も。雨降るかなって思っただけ。」
「ふーん」
私は頷いた。
美少年と梅雨は似合うという事実を、そこでもまた繰り返し思った。普遍の事の様に。
「雨が好きなの?」
「ううん。嫌い。でも考えようによっては大事だし。山井さん、傘持ってきた?」
「うん」
ふーん、と恭くんは呟いた。
窓の外を見ると黒雲が立ち込めて、今にも雨が降り出しそうだった。
「ねえ、恭くんってヴァンパイアなの?」
前から思っていた事を、私は当てずっぽうに聞いた。
「は?」
恭くんは目を丸くした。
「どういう事?」
「顔立ちとか、見た目が、妖怪レベルで歳取らないでしょ」
「何それ」
恭くんは腑に落ちない顔をしていたが、やがてくすくす笑い出した。
「だったら面白いね」
恭くんはまた窓の外に目をやった。
気だるげな。物憂げなアンニュイな横顔で。
果たして五時間目を過ぎてから雨が降り出した。
私は机の中の折りたたみ傘を確認し、残りの面倒な授業を聞き流してやり過ごした。
「山井さん」
ホームルームが終わって放課後になった時、後ろからやってきた恭くんが私に言った。
「帰ろう」
私と恭くんはいつも一緒に帰る。
結構仲良しな方、だと思っている。
靴を履いて昇降口を出ていくとパラパラと雨が降っていた。
屋根のあるステップに、恭くんは先に傘を出して待っていた。
ぱらり、と音を立てて傘を開きながら、恭くんがいきなり言った。
「山井さん、僕ってヴァンパイアなんだ」
「はい?」
「1000年生きてる。毎日少しずつ血を呑んでる。」
ぽかんとしている私を見下ろして、恭くんがまただしぬけに言った。
「山井さん、僕の顔好きでしょう。」
「え、うん」
恭くんは傘を揺らしながら。
「それなら後1000年は一緒に居てよね。1000年じゃないなら100年。」
「それって告白なの?」
私が聞くと、恭くんはしかめっ面を作った。
「顔が好きなんでしょう。」
それから言った。
「山井さんの面食い。適当に窓見て見せて釣ったら付いてきた。あれわざとだよ。感じ悪い。」
「え」
「顔ばっかり見ないで。ちゃんと僕を理解してよ。分かってよ。僕の事。何を思ってるかとか。ちゃんと。」
「中も好きだよ。」
慌てて言うと、恭くんは美しい仏頂面でなら良い、と言った。
「1000年後って、どんな風かな」
「さあ。僕は今が大事だから。少なくともこの雨はあがってて貰わないと。」
雨音を聞きながら、私達は2人の世界に居るつもりで、近い近い将来についての話をしたのだった。