冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
ぴしゃりと言いのけた香蓮に藤山は圧倒される。
すると彼女の隣に冷ややかな表情をした玲志がやってきて、ふたりを無理やり引き離す。
「藤山さま、いったいどういうおつもりですか?」
「玲志さん……」
玲志は香蓮の腰を抱いて引き寄せると、藤山を睨みつける。
「今進んでいるビルの売買の件。すべて白紙に戻してもいいですが、いかがしましょう」
「いや、今のはただの冗談だよ。ちょっとした戯れ……見逃してくれないか、日向君……!」
怒りに満ちた玲志を見て顔を真っ青にした藤山は、ぺこぺこと何度も頭を下げる。
「肝に免じておいてください。香蓮になにかしたら絶対に許しませんから」
玲志は冷めた表情でそう告げると、香蓮の腰を抱きその場をあとにする。
香蓮は玲志の醸し出す険悪な雰囲気に圧倒されながら一緒に会場を出て、人気のない別のホールの前にやってくる。
「香蓮、すまない。俺がひとりにしたばっかりに」
「いえ。まさか藤山さまがいるとは思っていなくて……」
玲志に救ってもらった安心感と、飛鳥馬家の現状を聞いて不安な気持ちが入り乱れる。
すると暗い表情をする香蓮の頭を、玲志はポンと撫でた。
「香蓮が藤山にはっきり言ってくれて嬉しかった。俺のことを想ってくれていると十分伝わってきた」