冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
 女医の忠告に香蓮は気を引き締める。

 病院でお会計を済ませてすぐ、玲志にメッセージで報告しようとスマホを手に取ったが思い直した。

 (メッセージよりも、自分の口から伝えたい)

 玲志が夜に電話をかけてくれるのを思い出し、香蓮はスマホをバッグにしまう。

 それから香蓮は帰りの電車で、家族三人が幸せに生活する姿を頭の中で何度も何度も思い浮かべた。

 今まであまりにも自分の不幸な生い立ちから、子供なんて考えられなかった。

 しかしエコーに映っていた我が子の心臓が動く姿を見て、ちゃんと自分の体の中に生命が宿っていると実感できた。

 (私ママになるんだ。この子を、ちゃんと産んであげたい)

 偶然だったが、玲志の個人秘書が戻って来てくれたおかげで、香蓮は家で過ごすことができる。

 医師の言う通り無茶はしないよう、家事も無理はしちゃいけないと言い聞かせた。

 浮足立った気分で夕食と入浴を済ませ、あとは眠るだけ。

 その間、香蓮が玲志に送ったメッセージの返信はない。

 (きっと移動や会食などでバタバタしているんだわ。落ち着いた頃に電話がかかってくるでしょう)

 気分がすぐれないのもあって、香蓮はベッドに寝ころびながら玲志の電話を待つことにした。


 「んっ……」
< 120 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop