冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 血の繋がった父とは思えない心無い言葉に、香蓮の心は粉々に砕け散る。

 「そうすりゃ、お前も晴れて独り身だ。藤山さんもお前の容姿が相当気に入っているようだったから愛理の代わりに……」

 「やめて!!」

 香蓮はこれ以上心が壊れないように拒絶反応を起こし、耳をふさいで達夫の声を遮った。

 「ひどい。ひどいよ……もう誰も、信じない……!」

 香蓮は逃げるように部屋を飛び出す。

 彼女が玄関の扉の向こうに消えるまで、由梨枝と愛理の笑い声がけたたましく鳴り響いていた。

 (玲志さん、本当は……私のこと許せなかった?)

 香蓮は外に飛び出し、あてもなく夜道を彷徨い歩く。

 するとちらちらと雪が降ってきて、香蓮の記憶を上塗りするようにあたりを白く染めていった。

 香蓮を妻として大切にすると告げたあの日、そして彼女を好きだと言った日、初めて体を重ねた日……。

 それらが由梨枝が持っていた写真一枚で、薄れていく。

 「玲志さん私……」

 香蓮は言いかけるが、激しいめまいに襲われその場に倒れる。

(私……それでも、あなたが好きです)

 遠のいていく意識の中、香蓮は目の前に広がる真っ白な地面をシロツメ草の群衆と重ね合わせていた。
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