冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
「行ってらっしゃい。玲志さん」
玲志は香蓮の唇の端にキスを落とすと、自宅をあとにする。
飛鳥馬家と縁を切ったあの日から、彼らについてふたりで話したことはない。
なかったことのように暮らし、この穏やかで美しい日々を丁寧に生きているのだ。
しかし玲志は、人づてにすべてを知っている。
飛鳥馬達夫が自己破産したのち、由梨枝と一方的に離婚して、ひとり行方知らずになったこと。
残された由梨枝と愛理は無一文になり、職を転々とした後、現在は水商売で生計を立てていること。
(絶対に、あの女たちを香蓮の目に触れさせて堪るものか)
香蓮は知らないのだ。
玲志が由梨枝と愛理が自分たち家族にかかわらないよう、ありとあらゆる手を尽くしているというのを。
(一生、知らなくていいことだ。香蓮には心から笑っていてほしい)
玲志にとって、香蓮の幸せ、香蓮の笑顔が生きるすべてだから……。
「ふふっ、心音もう寝ちゃった」