冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 『うん。ありがと』

 (物なんていらない。私がほしいのは……)

 〝玲志〟だ。

 彼が誰かに向ける眼差しや笑顔を独り占めしたい。みんなのものではなく、自分のものにしたい。

 あの頃のように。

 こんなふうに誰かを想い嫉妬して苦しくなる感情を、香蓮は知りたくなかった。



 欲しいものが思いつかないま時間だけが過ぎていった。

 そんなある日。

 『玲志君、私にずっと優しかったのに! 思わせぶり?』

 玲志と同じ制服を着ている女子生徒を駅前で見かけた香蓮は、物陰に隠れる。

 この日は期末テストの直前で、玲志に最後に勉強を見てもらう予定だった。

 (どうしたんだろう。あんなところで)

 玲志は真剣な顔で、泣いている女子生徒を見つめている。

 『君が勉強に困ってたから助けてただけ。それに俺にはずっと、好きな子がいる』

 (え……?)

 玲志の言葉が衝撃的で、言葉を失う。

 けれどそんな香蓮に、彼は重ねて衝撃的な言葉を浴びせた。

 『けど高校卒業したら海外に行く予定だから、その子に想いを伝える予定はないけど』

 (どういうこと? 玲志君が海外……?)

 『そんな……! じゃあ私でもいいじゃない。少しの期間でいいから、付き合ってほしい』

 『無理だ。好きじゃないのに一緒にはいられない』
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