冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
 玲志は縋りつく女子生徒を容赦なく切り捨てる。

 『もう諦めて』

 香蓮は彼の見たこともない冷ややかな瞳に、息を飲んだ。

 一方で女子生徒は悔しそうな表情で涙をぬぐい、あろうことか香蓮の方向に走ってくる。

 とっさに隠れようとするも、玲志はちょうどタイミングよく香蓮を見た。

 『香蓮?』

 『れ、玲志くん。ごめんなさい……』

 気まずさのあまり視線を外した彼女は、俯いたまま玲志の後を通り過ぎ足早に自宅へと向かう。

 (玲志君には好きな人がいて、海外にも行っちゃう)

 何も聞かされていなかった悲しみと失恋のショックが大きく、涙さえでない。

 ぼんやりとしたまま自宅に戻ると、少しして時間通り玲志が香蓮の家庭教師へとやって来た。

 『さっきは変なところ見せてごめんな。勉強に集中しよう』

 『うん……』

 テスト前の香蓮に気を遣っているのか、玲志はいつも通り明るく振舞ってくる。

 しかし玲志の隠していた事実を知った今、勉強に集中などできない。

 『ごめん。玲志君、やっぱりこのままなかったことにはできないよ』

 『香蓮……』

 香蓮は勇気を振り絞って彼の綺麗な瞳を見つめる。

 『私、さっき全部聞いちゃったの』

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