冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 『もちろん。玲志君のこと応援してる。誰よりも』

 必死で笑顔を作っていた香蓮だったが寂しさのあまり、再び涙をこぼす。

 (本当にいなくなっちゃうんだね。玲志くん)

 手で顔を覆った彼女を、ついに玲志は包み込んだ。彼の懐に収まった彼女の心臓が、早鐘を打ち始める。

 『俺がいなくなるのが、寂しいのか?』

 生地ごしに伝わる彼の体温は、想像していたよりずっと熱い。

 厚い胸板に顔をうずめると懐かしい肌の香りが、香蓮の脳裏に幼い彼を蘇らせた。

 『当たり前だよ。ずっと一緒にいたのに』

 『うん……』

 (好きだから、本当に寂しい。でも……好きだから応援してあげたい)

 心優しい香蓮は彼の広い背中に腕を回し、愛おしむようにそっと撫でる。

 すると玲志はいっそう強い力で彼女を抱きしめ、赤く色づいた耳朶に唇を寄せた。

 『もし俺が夢を叶えて、日本に戻ってこられたら……』

 玲志はそうつぶやくと、黙り込んでしまう。

 言葉の続きを待っていた香蓮だったが、沈黙を続ける玲志が心配になり、そっと距離をとる。

 『玲志君?』

 彼と視線を合わせると、いつものように優しく微笑まれた。

 『ううん、なんでもない。じゃあ、勉強の続き、しよう』
< 19 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop