冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
その額、数千万円以上と聞いて香蓮は驚愕した。
彼女の目に映る玲志の父親は、普段はとても温厚で心優しい男性で、到底そのような非道な行いをするようには見えない。
けれど父親の達夫と仕事で意見が食い違いがあり、時折言い合っているのを目にしていたのも事実。
なんだかんだで昔から親しかったふたりだったが、香蓮が知らぬ間に決定的な亀裂が入っていたのだろうか……。
彼がいない現実を受け止められないまま春がやってくる。
『結局、渡せなかったな』
香蓮はいつでも渡せるようにと勉強机にしまっていた手紙を取り出し、数カ月前に綴った彼の気持ちを視界に映す。
『玲志君……さよなら……』
玲志へしたためた言葉に、涙の粒が染みわたる。
玲志が楽しみにしていた期末テストの結果で好成績を残した彼女は、無事に高等科に進学した。
もしかしたら玲志は宣言通り海外で水泳選手として頑張っているのかもしれないと、
インターネットで彼の名前を毎日のように検索にかけたが、それらしき情報は一度もヒットすることはなかった。
そのたびに最悪な事態が現実を帯びてくる。
苦しみ抜いた香蓮は玲志への恋心を、記憶の部屋に無理やり封じ込めることにした。
(もう玲志君を忘れよう)
しかし……香蓮は、愛する母が突然病魔に倒れ天に召されたときや、突然我が物顔で家に上がり込んできた義理の母と妹、そして実の父に虐げられたとき。
苦しみでどうにもならないときは、いつも記憶に刻まれている玲志の優しい笑みを思い出して胸の傷を癒した。
『自分を信じて』