冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
復讐
香蓮が初めて縁談の話を聞かされて一週間と少し経った頃。
さっそく資産家の藤山との見合いの場が、東京都芝浦区の東京タワーの傍にある料亭で組まれた。
すでに達夫と藤山の間で話はまとまっているので、お見合いというよりは顔合わせ程度のようなもの。
香蓮の両親が同席するわけでもなく、ふたりの仲介人というのも存在しない。
なるべく簡略されたお見合いだが、達夫の建前から香蓮は家にかろうじて残っていた母の訪問着で向かうことを命じられた。
予定時間より早めに料亭へ到着した香蓮は、先に部屋に通される。
香蓮は体を締め上げる窮屈な帯と緊張とで、軽い吐き気を感じ、ハンカチで口元を押さえた。藤山と上手く話せるのか、不安で仕方ない。
(藤山さま、そろそろかしら……。いくら憂鬱とはいえ、明るく振舞わないと失礼だわ)
「失礼いたします。お連れ様がおいでになりました」
襖の向こうを見ると、仲居らしき女性ともうひとり。男性のシルエットが見える。
香蓮は目をつむり深呼吸してから得意の愛想笑いを浮かべた。
「どうぞ、お通しくださいませ」
香蓮の声にスッと襖が開かれる。
「……ご無沙汰しております。香蓮さん」