冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
 「どうして、そんなことをわざわざ……」

 「君が心配だったんだよ。藤山さんの性格をよく知っているから、潰されてしまうのではないかって」

 玲志が吐いた言葉に、香蓮の頬がじわりと熱くなる。

 彼が自分のことを心配して、わざわざ大金を叩いてまで娶ろうとしてくれている。その事実に、香蓮の胸が熱くなる。

 そんな心情を悟った玲志は、さらに彼女の心を揺さぶるような甘い眼差しを送った。

 「あんなに長い時間一緒に過ごしたんだ……香蓮のことを放っておけるわけがない。ずっと、会いたかった」

 「……玲志君。私も、会いたかったよ」

 過去の彼の面影を見つけた香蓮は、込み上げてくる涙に耐えながらかすかに笑みを浮かべた。

 ずっと恋い焦がれた玲志が自分の前に突如現れただけでも奇跡だというのに、さらに伴侶として選んでくれた。

 今まで神の存在など一ミリも信じていなかった香蓮だが、このときはじめて本当に存在するのだと思った。

 玲志は彼女に微笑みかけると、バッグから婚姻届けと万年筆を取り出し、テーブルの上に置く。

 「すでに、飛鳥馬家にはこの話は通っている。もちろん香蓮のお父様も俺のことをよく知っているし、事情を説明し、ASUMAも、香蓮も助けると言ったらすぐに承諾してくれた。あとは君がここにサインをしてくれれば、俺たちは晴れて夫婦だ」

 「夫婦……」

 香蓮はじっと婚姻届けを眺めていたが、やがて万年筆を利き手にとる。

 彼女に迷う理由などなかった。物心ついたときから、彼しか見えていないのだから。

 震える手で名前を記しだした香蓮を見て、玲志はゆっくりと口角を上げる。

 嵐のように起こった出来事に正直完全に理解が追い付いているわけではないが、彼との結婚を前にして掴まないわけにはいかない。

 「香蓮。一生豊かな生活を保障する。君がほしいもの、君が望むこと、それらはすべて俺が叶える」

 玲志の言葉が胸に引っ掛かり、手を止める。

 この感覚は、十年前にも感じたことがあった。

 香蓮はモノが欲しいのではなく、玲志が欲しいのだ。

 「玲志くん、私……」
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