冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
顔を上げた香蓮は、息をのんだ。
玲志の冷たい目が、じっと婚姻届けを見つめていたから。
「どうしたんだ? 香蓮」
「えっと……」
心を満たしていた幸福感がスッと波を引くように消えていく。
(どうして、そんな顔をしているの?)
彼の不可解な行動に不安を感じる彼女に、玲志は何事もないように温かい笑みを送った。
「あとは、〝蓮〟だけだな。……もしかして、俺との結婚を不安に思ってきたか?」
「ううん、そういうわけではないんだけど……」
「なんでも言ってくれ。このサインをしたら、簡単には戻れなくなる」
玲志の気遣うような言葉に、香蓮はごくりと喉を鳴らす。
(本当に玲志君はいいんだろうか。私なんかと結婚して……)
自分はいいが、玲志は同情心から人生を左右するような決断をしようとしてくれている。
最後に、ちゃんと彼の気持ちを確認してからサインをしたい。
「私を心配してここに来てくれたのは嬉しい……私は、玲志君と結婚できて、とてもうれしい……」
香蓮は直接的な言葉ではないが、暗に〝好き〟だと伝える。
初めて自分の想いを口にした彼女は、まともに彼の顔が見れない。
「でも、玲志君は私のことどうとも思っていないでしょう? なのにこんな大事な決断、同情だけでしてもいいものかなって」