冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
 彼女の言葉を静かに聞いていた玲志だったが、やがてくすりと鼻で笑った。

 「……同情?」

 香蓮が顔を上げたタイミングで、玲志が立ち上がる。そのまま彼は、彼女の横まできて膝をついた。

 「れ、玲志、くん」

 衿にかかる長い黒髪を後ろに払った玲志は、そっと彼女の頬を手のひらで包み込む。

 顔が持ち上がるとふたりの距離はわずか十センチ足らずになった。

 今まで知り得なかった男女の空気を、香蓮は確実に感じ取る。

 「香蓮には、愛情よりももっと深い感情を持っているよ」

 彼に妖艶な眼差しを向けられて、香蓮の心臓は壊れそうなほど暴れている。

 苦しさから顔をゆがめた彼女もまた、玲志の目には妖艶に映っていた。

 「深い、感情……?」

 「ああ。言葉にならない感情だ」

 彼の囁きが耳に届いた直後、やわらかな質感を唇に受け止めた。

 驚き体を硬直する彼女に構わず、彼はつばむような口づけを落としていく。

 「さぁ、サインして香蓮。俺と結婚しよう」

 「ん……」

 そう彼は急かすのに、角度を変えて彼女の口腔にそっと舌を差し込んだ。

 玲志は体をそらした彼女の手をとると、骨ばった自身の指を絡め、お構いなしに引き寄せる。

 その拍子に湯呑がテーブルからこぼれ落ちるが、彼はゆったりと舌端で歯列をなぞり、香蓮の舌を食む。

(玲志くんと、キス……してる)

 戸惑いとともに、玲志が自分を〝女〟として見てくれていることにほっとする。

十年間の空白があるが、玲志はあの頃と変わらぬまま、自分を大切に思い、そして大切にしようとしてくれているのだ。

 (愛情よりも深い感情……なら、大丈夫)

 キスが止み、呼吸が混ざり合う距離でふたりは見つめ合う。

 「サイン、する……ね……」

 「ああ」
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