冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
 耳を疑うような言葉に、香蓮の顔は強張った。

 何も言えない彼女を残し、玲志は冷ややかな表情のままその場に立ち上がる。

 「君の父親にハメられて、親父は仕事を失い、多額の借金を背負った。さらには心労がたたり病に倒れて、呆気なく逝った。俺を残してね」

 「どういうこと……わけが、わからない……」

 香蓮の頭は混乱を極めた。

 達夫が玲志の父親を意図的に追いやったということなのだろうか。

 十年前に母から、玲志の父親がASUMAの金を横領し、玲志とともに失踪したと聞いていた。

 けれど玲志はその事実とは真逆な内容を口にしている。

 頭を抱える香蓮を見下ろし、玲志は失笑する。

 「俺も父の後を追うことばかり考えていたが、SKM—旧佐久間コーポレーションの社長で、地位のある叔父に引き取られてから、それは馬鹿らしいと気づいた。飛鳥馬家がのうのうと生きているのに、なぜ真面目に生きてきた親父と俺がこんな目に合わなくてはいけないんだと」

 次々と明るみになる事実に、香蓮の胸が軋む。

 達夫の人格を一番知っているのは、自分自身。

 そして玲志という人間が、昔から嘘をつかないまっすぐな人間だというのも知っている。

 彼の話だけをすべて鵜呑みにしてはならないが、達夫ならやりかねないと思ってしまう。


 「だから俺は淡々とやるべきことをこなし、圧倒的な地位を手に入れることだけを考えてきた。すべては君たちに復讐する機会を得るために」

 「玲志君……」

 あの心優しい彼をここまで追い詰めたのは、紛れもない飛鳥馬家なのだろう。

 その憎い血が脈々と流れている香蓮には、彼にかける言葉が見つからない。

 眦に涙を浮かべる香蓮に、玲志はぞっとするほど美しい笑みを浮かべる。

 「君の生涯を俺に捧げろ。一生飼い慣らしてやる」
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