冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 玲志の言葉が香蓮に重くのしかかる。

 玲志は彼女に背中を向けると、早々に身支度を整え、ひとことも言葉を発することなくその場をあとにした。

 「玲志君……」

 静まり返った客間に取り残された香蓮はむさび泣く。

 愛する相手を実質的に失った悲しみと、我が父が玲志と玲志の父を苦しめた疑惑があるからだ。

 (玲志君は私に贖罪しろというのかしら)

 しばらくその場にとどまっていた香蓮だったが、なんとか気を取り戻し自宅へと帰ってくる。

 するとちょうど達夫が外出先から帰ってきたばかりで、泣きはらした香蓮と対面した。

 「なんてひどい顔なんだ。もしかして再会できた嬉しさで泣き喚いたのか」

 「お父さん……」

 香蓮は自分の足元を頑なに見つめ、達夫の目を見ようとはしない。

 「まさかSKMの若社長が日向の息子だったなんてねぇ。色々あったが私らには恩があるといって助けると。人間ができたもんだ」

 「お父さん、いったい、玲志君たちに何をしたの……玲志君のお父さん、亡くなったって……」

 切れ切れに言葉を発する香蓮を、達夫はフンッと鼻で笑い飛ばす。

 「いったい何を吹き込まれたか知らんが、日向はASUMAにとって邪魔だった。邪魔者を排除するのは当たり前だろう」

 「消したってどういうこと……! どうしてあそこまでふたりを追い詰めるようなこと」

 「うるさい!」

 達夫に肩を思い切り突き飛ばされ、香蓮は体勢を崩す。

 彼女が涙目で睨みつけると、達夫は興奮した様子で指さしていた。

 「お前は日向の息子の機嫌をとっていればいいんだよ! わかったら消え失せろ!」
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