冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
初恋
四か月前――飛鳥馬香蓮は世田谷区にある自宅の郵便ボックスの前で、大きなため息を吐いていた。
「今日もこんなに届いてる……」
彼女の手にはハガキが二通、封筒が三通。それらすべて代金の未払いや借金の返済を求める督促状だった。
宛先からして、クレジットカード会社と自宅の住所は伝えていないはずの取引先から。
創業時からお世話になっている取引先に恩を仇で返すような行いをしてしまっており、身が縮まる思いだ。
しかし、支払いの目途は一切立っていない。会社の業績は最悪で、倒産が目前だからだ。
「お嬢さま、お帰りなさいませ」
「ただいま。遅くなってごめんね」
自宅の門をくぐり、庭園の小道を歩いて玄関の扉を開けると、飛鳥馬家の家政婦の月島が柔和な笑顔で香蓮を迎えた。
彼女は還暦を迎えているが、とても働き者で若々しく、香蓮は亡き母を重ねて月島に懐いていた。
そのまま洗面所に直行した香蓮は手を洗い自室に入る。
仕事着のジャケットとシャツ、タイトスカート、ベージュのストッキングを脱いで、部屋着である花柄のシフォンワンピースに着替え、化粧台の前に腰かけた。
鏡に映った自分を凝視する。もともとぱっちりとした二重が、疲れからなのかくぼんでやや三重になっており、薄ピンク色の小さな唇は少しカサついている。
(私、まだ二十四歳なんだけど……もっと老けて見えるわ)