冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
 聞き慣れた低い声に、体がビクリと反射的に跳ねる。

 「れ、玲志さん……」

 顔を上げると、会社帰りのスーツを着た玲志が香蓮のすぐ傍までやって来ていた。

 いつも以上に厳しい表情の玲志に、その場の空気が張り詰める。

 彼が歩いてくる方向的に、マンションの敷地内に入る間際、彼女の姿を目にしたようだ。

 やがてふたりの間にやってきた玲志は、冷ややかな目で男性を見つめた。

 「香蓮、こちらの方は?」

 「えっと、先程私の落ちたハンカチを届けてくださって……」

 すると呆れたように小さく息を吐いた玲志は、再び姿勢を正す。

 「そうでしたか。僕の妻がご迷惑をおかけしました」

 はっきりとけん制を示した玲志に、男性の表情も強張る。

 玲志は彼女を見るなり、視線を落とした先に見える白く華奢な腕を強く掴んだ。

 「行くぞ、香蓮」

 「は、はい……玲志さん……」

 グイッと腕を引かれ前のめりになりながらも、香蓮は男性に頭を下げる。

 ただ事じゃない空気を放つ玲志におびえながらも、握られた部分の力強さに、香蓮の心臓は激しく暴れていた。

 (玲志さん……すごく怒っているように見える……)
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