冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
一言も言葉を交わさぬままふたりは自宅に戻ってくる。
玲志はリビングの戸を開けようやく掴んでいた腕をほどくと、厳しい表情で彼女を見据えた。
「さっきのはどういうつもりだ?」
「ど、どういうつもりって……?」
「他の男に愛想を振りまいて……君は俺の妻だという自覚はあるのか?」
香蓮は玲志になんのことを言われているのか理解できず、一瞬動きを止めた。
がすぐに香蓮は状況を理解し、首を左右に振る。
「あ……愛想なんて全然、振りまいていないです……! ただ、あの男性が落とし物を拾ってくれて親切だったから少し世間話をしていただけで」
「君が何も分かっていないようだな」
玲志は低く怒りがこもった声でつぶやくと、香蓮の顎をすくい上げる。
そのまま掴まれてやや彼の方向に引き寄せられた香蓮は、近づきすぎた距離に戸惑った。
「あの男の目は完全に君を狙っていた。隙を突いてこんなことをされても、何もできないくせに」
「玲志さん、あの……すみませ……」
「謝罪はいらない。ちゃんと理解しろ」
冷ややかな眼差しを向けた玲志は香蓮の唇に自分のものを重ねる。
香蓮はとっさに距離をとろうとするが、しっかりと腰を抱かれてしまい、深い口づけが落ちてきた。
「んっ……ふ……」
(どうして玲志さん……この一か月、私を避けてきたのに)
なるべく関わりたくなさそうだった玲志に密着されて、香蓮はただ戸惑うしかない。
次第にキスが激しさを増してきて、酸欠になりかけた香蓮が玲志の体にしなだれかかる。
玲志は絡めていた舌をほどき、香蓮の濡れた口元を親指でぬぐった。
「香蓮。君に妻としての役目を果たしてもらうと言ったのを、覚えているか」