冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い


 豪遊しているはずの飛鳥馬家にいながら、玲志が稼いだ金をむやみに使いたくないと、クレジットカードを受け取ろうとしなかったり、見知らぬ男に声を聞かれても純粋無垢な態度で接し、理不尽な文句をつける玲志に平謝り。

 十年前と変わっていない香蓮の姿に、玲志の頭も追いつかない。

 (だから妙な気持ちになるのか?)

 自分が恋していた彼女と現在の彼女を必然的に重ね、失ったはずの欲望が再熱する感覚に陥る。

 これまでどおり冷遇を続け、彼女の自尊心を根こそぎ奪うつもりだったのに、他の男に欲を向けられたというだけで苛立ち、嫉妬するなんておかしい。

 「違う。買われてる身なのに、他の男にへらへらするから……」

 人の妻としての自覚がない香蓮に苛立ちを覚えただけだと、玲志は無理やり結論付ける。

 ここまでひどい態度で接する自分に、彼女はどんなときもまっすぐ向き合おうとする。

 その姿をいじらしく愛らしいと思ってしまう自分に、玲志は最も苛立ちを感じていた。
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