冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
 翌朝。

 玲志は顔を合わせた香蓮と挨拶だけをし、タクシーに乗り込む。

 午前十一時から行われる結婚式の舞台となる、文京区の葉山式場に向かった。

 結局玲志は昨晩の一件でまともに睡眠をとることはできず、車の振動で少しずつ睡魔が襲ってきた。

 ちらりと横に視線を投げると、香蓮の大きな目が赤らんでいてうっすらと目の下の隈が濃くなっているのに気づく。

 あの後自分と分かれ、彼女が部屋に戻って泣いていたのを安易に想像でき、ずきりと胸が痛いんだ。

 (意味が分からない。なんで……)

 なぜ今彼女を見て胸を痛めているのか、玲志は気づきたくなかった。

 気まずい空気のまま式場に入ったふたりは、互いにドレスアップするためフィッティングルームへと移動する。

 玲志は会社の部下と香蓮に式を任せっきりで、今日どんな姿になるのかすら把握していない。

 (ただの建前だけの結婚式。なんの思い入れもない)

 ヘアメイクが済み、タキシードに身を包んだ玲志はスマホを手に取る。

 新着メールが一通届いている。

 直々の秘書が結婚式に来る最中、交通事故に遭い、腕と足の骨を折る重傷を負ったという内容だった。

 もちろんこれから行われる式は欠席させてほしいとのこと。

 「幸先が悪いな」

 (よりによってこんなときに)

 秘書へ見舞いのメールを返信したところで、インカムを装着したウェディングプランナーに背後から声をかけられる。

 「新婦様のご用意が出来ました。少しおふたりでお話されますか?」
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