冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
玲志の言葉にそれ以上何も言えなくなった由梨枝は悔しそうに口を噤み、嫌味たらしく香蓮を睨みつけた後に愛理を見る。
「行くわよ」
愛理も不貞腐れたような顔で香蓮を見た後、由梨枝の後を追うようにして部屋を出た。
静まり返った控室にふたりきり。玲志は傷ついた香蓮を、強く抱きしめ続けていた。
「れ、玲志さん……?」
香蓮の問いかけに、彼は何も返さない。
今自分が見たものが、香蓮が今まで置かれてきた環境そのものなのだろうか。
信じたくはないが、きっとそうなのだろう。
飛鳥馬家のと関わり始めてから達夫をはじめ由梨枝や愛理の香蓮への態度に、たしかに違和感はあった。
ただ露骨ではないだけで、よくよく思い返せば香蓮の人権を否定するようなものばかり。
さらに何も知らない自分が、勝手に飛鳥馬家の恨みの感情を香蓮にぶつけていたとしたら?
彼女のこの数カ月の心労は計り知れない。取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
「お母様が亡くなってから、あの義理の母親と妹にああやっていじめられてきたのか?」
玲志の問いかけに、腕の中にいた香蓮の体がわずかに反応した。
彼女は再び、玲志の胸板に顔をうずめじっと動かなくなる。
答えが待てなくなった玲志は体を離し、彼女の肩を引いて顔を覗き込んだ。
「どうして君は、いつも我慢するんだ?」