冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
玲志は控え室を出てすぐ、その場に立ち止まる。
香蓮の今言っていた言葉をすべて理解できたわけではない。
だが、彼女が今の環境に耐えていたのは自分と再会できる日を夢見ていたからという意味なのはわかった。
玲志は香蓮が自分を慕ってくれているというのを、十年前にうすうす感じ取っていたが、
それが彼女にとって“恋”なのか、はたまた兄を想う気持ちと同じなのか、当時判断がつかなかったのだ。
(香蓮はずっと俺を想い続けてくれていたのか?)
あの頃の玲志は夢半ば。幼い香蓮との恋仲を夢見ていたが、想いを伝えることは諦めていた。
ふつふつと喜びがこみ上げてくるのが分かり、玲志はぎゅっと拳を握り冷静になれと、自分に言い聞かせる。
(香蓮はただ、飛鳥馬家に振り回されてきただけなのかもしれない)
再会して以降、香蓮の人となりを身近で見てきた玲志はそうとしか思えなかった。
あの頃の純粋無垢なまま、香蓮は必死に置かれた環境で踏ん張って来たのだろう。
下手したら自分以上に過酷な状況に置かれていたのかと思うと、悔しさと悲しみが同時に押し寄せる。
玲志は香蓮を強く想いながら、再び廊下を歩き出した。
彼女に対する憎しみの気持ちがすっかりなくなっていることに気づきながら……。