冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
交差


 (結構外、暗いなぁ)

 電車から降りた香蓮は、駅から少し歩いたところで立ち止まり空を見上げる。

 秋空は鱗雲が真っ赤に染められて、目を見張るほど美しい。

 玲志との結婚式からはや一週間。

 仮初夫婦にはハネムーンはもともと計画されておらず、結婚式前と変わらない日常をすでに送っている。

 先程香蓮は英会話教室に行っていたのだが、二時間の授業内容はほとんど頭に入っていない。

 (いい加減気持ちを切り替えないとね。こんなんじゃ玲志さんの妻失格だわ)

 この一週間、香蓮は浮足立っていた。それは、玲志が継母と義理の妹から救ってくれたから。

 結婚式場の控室で玲志が言ってくれた言葉が本心からなのかどうかは分からないが、ひとつひとつが温かくて頭の中で繰り返していると心の傷が癒えてくるような気がする。

 結婚式が終わっても玲志の言葉数は少ないままだし、一般的な“夫婦”と違うのは変わらないが、すれ違えば挨拶を交わすし、なんとなく目が合う頻度が増えた。

 ほんの些細な変化だったが、玲志が少し自分に歩み寄ってくれている気がして、香蓮は胸をときめかせていた。

 「ただいま帰りました」
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