冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 玲志は香蓮の質問に箸を止めることなく、おかずが残っている小鉢に手を伸ばす。

 「ああ、個人秘書がケガをしていて休んでいて、雑務が増えているだけだ」

 「えっ……そうなんですか? 他に代わりの方は?」

 「秘書課には何人かいるがあまり信用ならない。だったら自分で事務処理をしたほうがマシだ」

 玲志はそういうが、連日帰りが遅くなってしまうほど業務が滞っていると察した香蓮は、途端に彼の体調が心配になってくる。

 (よく見たら玲志さん、うっすら目の下に(くま)がある。睡眠もしっかりとれてないんじゃ……)

 「ごちそうさま」

 玲志の顔を凝視していた香蓮は、ふと低い声に意識を引き戻される。

 すぐに玲志は席から立ち上がり、食べ終わった食器を重ね始めた。

 その様子を見てとっさに腰を上げた彼女は、急いで彼のもとへ駆け寄る。

 「あ、玲志さん……! お疲れでしょうから、私が食器を片づけますので」

 「え?」

 玲志が香蓮を見たそのとき。

 彼女の履いていたスリッパのつま先がフローリングの床に引っ掛かり、体が前のめりになる。

 玲志はゆっくりと自身のもとへ倒れてくる彼女の腰をしっかりと抱き、腕の中にいる顔を覗き込んだ。

 「大丈夫か?」
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