冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 言い切ってから香蓮の心臓はバクバクと激しい音を立て始めた。

 そんな彼女に背中を向けて無反応だった玲志だったが、くすっと笑う。

 「本当に君は昔からおせっかいだな」

 彼の皮肉めいた言葉に緊張が走る。だが振り返った顔が優しく笑っていたので、香蓮は思わず喉を鳴らした。

 「君の誠意、ちゃんと受け止めたよ」

 「玲志さん……」

 彼女に笑いかけた玲志は、食器をキッチンに持っていく。

 彼が食器を洗っている音を聞きながら、香蓮は自分の席に戻って再び箸を持った。

 玲志がやけに自分に優しい。困惑する気持ちと嬉しさが混じって口に入れた野菜の味はしない。

 (玲志さんさっき“昔から”って言った。昔のこと、自然と会話に出てくるなんて、夢みたい)

 飛鳥馬家と日向家のいざこざで、ふたりの幼き頃の思い出は禁句のようになっていた。

 もし会話に出てきたとしても、本気で玲志が憎しみを露にするときだけ。

 しかし先程の玲志は笑っていたし、からかうようなニュアンスだったように思う。

 (高望みなんてしない。玲志さんに好きになってもらわなくてもいいから、今みたいに普通に会話ができたらいいの)
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