冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
玲志の言葉に我に返った彼女は急いで腕時計を確認する。
時刻は十九時をゆうに超えており、自分がしばらく眠っていたと理解した途端全身から汗が噴き出した。
昨晩は初出勤の緊張で眠れていなかったのもあり、気が抜けて一気に睡魔が襲ってきたようだ。
「ご、ごめんなさい玲志さん。私……少し残業するつもりだったんですけど……」
「立花から十七時に君が業務を終えた連絡はきていた。だからサボりではないとは分かっている。……だが、こんなところで寝るのはみっともないだろ」
「はい……申し訳ありません」
玲志は淡々と彼女をしかりつけると、コートハンガーにかかっているコートをピックアップし、デスクに置いてあるビジネスバックをすくい上げた。
「帰るぞ」
「え……?」
何を指しているのか分からない香蓮が首をかしげると、玲志は小さくため息をつき、彼女に近づく。
綺麗にセットされている前髪から、鋭い切れ長の瞳が彼女をまっすぐ見つめた。
「一緒に帰るぞ。準備をしてくれるか」