冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
香蓮が確実に分かるように、玲志は言い聞かせる。
その声がどこか艶やかで、香蓮の頬がじんわりと熱を持った。
「かしこまりました。少々お待ちください」
(そうよね、私たち同じ家に住んでいるんだもの)
同居人を置いてひとり帰宅するというのは、いくら玲志といえど忍びないのだろう。
これ以上気を遣わせたくない香蓮は、手早く荷物をまとめ大きめのダッフルコートを羽織る。
彼女の支度を目視し歩き出した玲志を、彼女は急いで追いかけた。
(せっかく最近仲良くなれてきたのに、また振り出しに戻るようなことしちゃった)
少しずつ玲志と会話する機会も増え、香蓮が会社を手伝う流れになってから雰囲気がよくなっていた。
しかし出社初日に居眠りをし、その姿を社長の玲志に目撃されるという大失態を犯してしまった。
先程の玲志の呆れたような表情を思い出し、香蓮の心は石のように重くなる。
「……大丈夫か? 動くぞ」
「はい。玲志さん」
特に会話を交わすでもなくSKMビルの地下に到着したふたりは、一番奥まった場所に停めてあるドイツ製のセダンに乗り込んだ。