冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
「玲志さん……」
「飛鳥馬に対して、憎しみが消えるわけではないが香蓮は別だ。必ず、あの男たちから君を守るよ」
玲志の力強い言葉に、香蓮は夢を見ているような錯覚に陥る。
玲志は泣き出しそうな彼女をじっと見つめていたが、やがて前を向いた。
再び発車した車に揺られながら、彼女は膝に置かれている両手をじっと見つめる。
(玲志さんに申し訳ないと思うけれど、やっぱり、すごく嬉しい……)
唯一の家族に見捨てられ、長い年月孤独に生きてきた彼女にとって、玲志がくれた今の言葉はどんなものよりも嬉しかった。
色んな出来事があり、昔と随分関係性は変わってしまったが、玲志はもう一度“自分”を見てくれるのだという。
実家が日向家にしてきたことを考えると、玲志がどれだけ懐が広く温かい人間か香蓮はしみじみと感じていた。
「玲志さん。本当に、ありがとうございます」
涙をこぼす香蓮に気づいた玲志は、左手を彼女に向かって伸ばす。
そっと頭に手のひらを置くと、優しく栗色の髪を撫でた。
「香蓮、これからもよろしくな」