冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い
鏡に映る自分はドレスに着られている感は残るものの、目鼻立ちがしっかりしているからか不思議と馴染んでいるような気がした。
(それに玲志さんとの関係が安定してるからか、表情も明るい)
ぼんやりとそんなことを思っていると、背後から扉をコンコンッとノックする音が聞こえてくる。
「香蓮。どうだ?」
玲志の声に緊張しながら扉を開けると、彼女を見下ろしていた鋭い目がわずかに開いた。
「意外と大丈夫かなって思ったんですが。玲志さん、いかがでしょうか……?」
玲志は黙ったまま香蓮を見つめ、微動だにしない。
(この反応、やっぱり似合ってない……?)
不安げな表情で首を傾げる香蓮に我に返った玲志は、優しく彼女に微笑みかけた。
「とても美しくて驚いた。ぜひ、そのドレスで参加してもらえないだろうか」
「……っ!」
直々にこうして玲志に頼まれていると思っておらず、香蓮の心臓がどきんと大きく鳴る。
「玲志さんがそうおっしゃってくれるなら……」
このドレスを着こなしてパーティに出る自信はないが、彼にここまで言ってもらえた以上、香蓮は頑張ろうと思う。
すると玲志は彼女にひとつ笑みを送ると、外商のほうを振り向く。
「このドレスに合うアクセサリーとシューズも一緒につけてくれるか。いくつでもいい」
「れ、玲志さん……! 私、アクセサリーなら持っていますしそんなにたくさんはっ……!」
玲志の厚意をありがたいと思う反面、至れり尽くせりで凝縮した香蓮が止めに入る。
だがすぐに彼女のふっくらとした唇に玲志の人差し指が当てられ、制止された。
「しっ。君は普段から俺に尽くしてくれているだろう。今日は俺が尽くす番だ」