謎めいたおじさまの溺愛は、刺激が強すぎます
「あの、近藤宰さんの通夜式の参列の方ですか?」

 電話で話している間、入口から背を向けていたので気が付かなった。

 黒のネクタイはしていないが、黒のスーツを着ているので、声をかけた。

「え…」

 少し長めの髪を明るい髪色に染めた、背の高い男性は私が声をかけたので驚いて振り向いた。
 
 けれど、振り向いた彼を見て、今度は私が驚いた。

(わ、凄いハンサム)

 年齢は25歳の私より上とわかるが、まるで芸能人かと思うくらい顔が整っていた。

「いや、おれは…」
「もう読経は終わってしまいましたが、受付はやっています」

 声も声優かと思うくらい素敵だ。近藤さんは確か古希を迎えたばかりで、彼はその友人という年代ではないけど、息子さんの仕事関係の人かも知れない。
 
「どうぞ」  

 男性は一瞬躊躇っていたが、覚悟を決めたかのように入口に向かった。
 
「…君は、親戚の人? 見覚えがないけど」

 式場に入るには二つある自動ドアが続いている。手前が空いた時、彼が私に聞いてきた。やはり故人の昔からの知り合いみたいだ。私も彼に見覚えがないのだから、彼が私を知らないのは仕方がない。

「近藤宰さんの娘さんと、私の父が夫婦で…」
「そんな風に言うってことは…」
「ええ。私は父の連れ子なので、親戚と言っても殆ど他人です。あ、手島さん、この方参列の方です」

 私は受付を片付けかけていた区長に声をかけた。

「あ、どうぞどうぞ…あれ?」

 顔を上げた区長が、私が連れてきた人物を見て、何かに気づいて首を傾げた。

「あんた…ユイト君か」
「お久しぶりです。手島のおじさん」

 男性は区長にペコリと頭を下げた。

「お久しぶりって…あんた、高校を出てからそれっきりで、どこで何をしていたんだ。時々年賀状が来るって宰さんが言ってたけど…十年、いや、二十年か」
「ちょうど二十年です」
「あ、思い出した。確か宰さんの…」

 最初怪訝そうにしていた会計係の人も、彼のことを思い出したらしく、ポンと手を叩いた。

「ええ、宰の愛人の息子です」
 
 すぐ横で聞いていた私は、頭の中で彼と宰さんの関係を整理した。
 宰さんにもう一人息子さんがいた? しかも愛人? 彼、ユイトさんはその息子で、二十年ぶりに現れた。ということでいいだろうか。

 だとしたら、自分とは義理の叔父と姪になるのかな。
 有美さんよりは随分若いけど、いくつなんだろう。
 でもあのおじいさんに愛人がいたなんて、初めて聞いた。 
 確かに若い頃はもてたんだろうなって、思っていたけど。

「不肖のって…」

 彼は手島さんと話しながら、上着の内ポケットから名刺を差し出した。
 参列者は記帳か、もしくは名刺を出すので間違いではないが、その名刺がただ「YUITO」とだけあり、どこか固定電話の番号をだけで、黒に金文字だったので、まるでホストクラブのようだと思った。

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