謎めいたおじさまの溺愛は、刺激が強すぎます
 私の父が有美さんと再婚したのは、私の母親が出ていってから。

 母親は、通っていた美容室にいた美容師と恋仲になり、父と娘の私を捨てた。

 私は五歳だった。

 母親の装いが派手になるにつれ、夫婦喧嘩は激しさを増し、私が保育園に行っている間に、母親は出ていった。

 いつも三時過ぎには迎えに来てくれていた母親が、四時を過ぎても迎えに来ない。
 親の仕事の都合で、いつも七時までいるお友達が帰っても、誰も来なくて、私は心細さに泣きじゃくった。

 ようやく母方の祖母が迎えに来てくれた時には、私は泣き疲れて眠ってしまっていた。

 「旭、お前は母親のようにはなるな」

 
 それが父の口癖になった。

 それからすぐに父は職場の上司の紹介で、有美さんと結婚した。

 彼女も子供はいなかったが、前の夫が事故で亡くなり、未亡人になっていた。

 有美さんはそれなりに私を可愛がってくれたが、父との間に穂香が生まれると、やはり自分の娘の方が可愛く思えるのは仕方がない。

 世間でよく聞く、継母が義理の子を虐めるといったあからさまなことはなかったけど、どこか父と有美さん、穂香三人の輪に入れない空気を感じていた。

 自分のことについて考えていると、さっきの唯斗さんが式場から出てきた。
 左頬には殴られたような痕がある。

 受付まで来ると、彼は受付にいる私達を見て殴られた頬を指でトントンしながら、苦笑した。

「大丈夫か?」

 手島氏が心配して尋ねる。

「まあ、仕方がないです」

 ペコリと軽く会釈して失礼しますと、彼は出ていった。

「何も殴らなくてもな…」
「実際、昔も正尚君から苛められていたという噂たったしな。何しろあの顔だろ。昔から女の子にモテてね。年齢関係なしに女性にチヤホヤそれてたもんだから、それも正尚君は面白く思っていなかったようだし」
「男の嫉妬って怖いっていいますからね」

 二人がボソボソ話しているのを聞いていた私は、はっとあることに気づいた。

「返礼品」
「え?」

 私が急に声を出したので、手島氏たちが「え」という顔で振り向いた。

「参列者の方に渡す会葬返礼品、お渡しするの忘れました」

 通夜式に来られた参列者に会葬の御礼状と共に渡す返礼品がある。今回はハンカチだった。

「私、渡してきます」
「え、あ!お嬢さん」

 まだ間に合うかも知れないと、私は式場の人が用意してくれた返礼品を持って外へと走った。
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