NY・Sentimental

満足そうに笑い席に向かおうとしたカレンの背中に、俺はたたみかけた。

「俺がこ……上司になるまでですね! 上司になったらボタンを開けるのはひとつだ」

とっさに”上司”じゃなくて”恋人”と、出てきそうになって慌てて自分の言葉を修正する。
なんだその恋人とは! と心の中で焦ってつっこみをいれる。
恋人をつくるだなんてまだ考えられる時期じゃないはずなんだ。俺は日本でつい最近……。

「期待してるわセイジ」

振り向いて、綺麗な白い歯を見せて笑うカレンの表情があまりにもきらめいて見え、額に変な汗がにじむ。
直属上司のカレンが恋人だなんて、こんな面倒なことはないじゃないか! 
カレンだって失恋したばっかりだ。
そうだ。彼女はああ見えても辛すぎる失恋をした直後なのだ。

胸に怒りとも悲しみとも区別のつかない苦い感情がわきおこり、俺はジョージのほうをぬすみ見た。
ジョージはチームメイトで妻になったばかりのケイトよりも、なぜだか、なんだかんだと理由をつけてカレンをかまう。
もうほおっておいてやれ! と怒鳴りたくなる時があるほどだ。

ほら今も。俺は椅子から立ち上がった。
ジョージが席に戻 ろうとするカレンに話しかけている。
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