NY・Sentimental
オフィスに着くともうセイジが来ていた。
セイジはちらりとわたしの足元を確認すると、微妙にがっかりしたような顔をした。
そう見えただけ、そう見えただけ。
すれ違うとき、それでも、他の人には聞こえないような無音声の日本語でささやいた。
「昨日はありがとう」
そのまま素知らぬ顔をして、意識して背筋を伸ばし、行き過ぎる。
セイジの視線が背中に、痛いほどの鋭さで突き刺さる。
違う!
わたしは何を勘違いしているの? 気のせい、気のせい。
わたし、昨日からちょっとおかしい。
わたしが今、いつもの精神状態にないことなんて、職場の人達には関係のない話だ。
事情を知っていてくれる優秀な部下がいることは確かでも、その人がわたしを気にするのはあくまでも直属の上司だからだ。
行き過ぎた自意識過剰は命取りだ。
今は仕事以外のことを考えている場合じゃない。
昼過ぎにはリラから電話が入り、パパの術後は安定しているから、心配しなくていいと言われた。
とりあえずは一安心だ。