NY・Sentimental
「この歳になってもまだ学ぶことはある。人を守る尊さと気高さだ。それを君と、君を守ろうとなり振り構わず行動したあの男から学んだよ。悔しいがね」



モトムラのどこか寂しそうな後ろ姿を見送りながら、考える。


あの最低な行為にも不器用な愛があったのだと知って、わたしは確かに今、ほんの少し救われたような気持ちになっている。










「カレン、まさかあの男の話を真に受けるつもりじゃないでしょう?」


モトムラと別れた後に入ったカフェで、つばが飛ぶ勢いでジェシーに言われた。


「ジェシー、わたしにとっては、考えようによっては願ってもない話よね? 見たでしょ? あの年棒。それに、支店長候補地にイスタンブールが入ってた」


「カレンはそれに一番惹かれてるんでしょ? イスタンブール支社は今は閉鎖よ」


「いずれ必ずイスタンブールに平和は戻るわ」


「セイジは? 彼のことはどうするのよ?
このまま何も確かめもせずにここから逃げ出すの?」


「逃げ出すんじゃなくて、お金を稼ぎに、赴任するのよ。任期だって五年とちゃんと決まってるじゃない」


「延長可能とも書いてあったわ」


「本人意志でね。こんな好条件の支社長なんてそうそうないわよ」

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