NY・Sentimental

5.◇Something  old◇ 誠司

カレンを最後に見たのはうちのビルのエントランスですれ違った、あの時だった。


「ブルガリアかぁ」


カレンがこのマンハッタンからいなくなって一ヶ月。


あわただしいヘッドハンティングの後、まるで俺から逃げ回るようにどこにも姿を現さなかったカレン。

そのくせ、飛ぶ鳥あとを濁さず、で見事なほど残る者が困らないようにできる限りの仕事を片付けていった。


ホテルに缶詰めだったと、後でジェシーに聞いた。


そうして、俺が自宅に押しかけたり、ジェシーに詰め寄ったり会社に掛け合ったりしている間に、カレンはとっととニューヨークを出ていたのだ。


海っぺりの柵にもたれて、真っ青な太西洋を見晴るかす。


この海の向こうにカレンはいる。


俺の手には四角い箱がある。


ジュエリー専門店を見るとふらりと立ち寄り、彼女に似合いそうなサファイアのピアスばかりを探す俺。


「このくらい奮発はしてもいいだろ」
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