NY・Sentimental
そして、その苛立ちで、俺は彼女の足元が不安定なヒールで支えられていることを考えもせずに、さっとよけてしまった。
転ばなくてよかった、と思った瞬間、あろうことか、目の前のジョージとかいう男は、軽く噴き出した。
ずいぶんと意地が悪くはないか、そういう態度は。
カレンは部下に、日ごろ恨まれるような悪辣な仕打ちをする上司には到底見えない。
俺は直感で『この男は好きになれない』と思った。
嫌なことに日本での俺の評価は、まさにカレンが言うように『いい人』そのものなのだ。
そのいい人、な俺が、好きになれないと思った。
今が初対面だと言うのに、好きになれない、をとおりこして嫌いだ、とさえ思った。
こいつと組んで明日から仕事か。
カレンの足元をそっと盗み見る。
無理に体制を立て直して、足首をおかしくしていないかな。
ひねったりしていないかな。