NY・Sentimental
ぜんぜんこんなの全く無問題よ、とつとめて明るく笑う。

「ごめんね、パパ、ママ、リラ。少しだけ一人になりたい。夜には一度家に顔を出すから」

わたしの勤める会社のあるロウアーマンハッタンからそう遠くないミッドタウン地区のグラマシー、その閑静な住宅街にわたしの家はある。
わたしは住み慣れたそこをすでにあとにし、結婚するはずだった男と住んでいた。

二人で探したあの家に、ヤツがもう帰ってくることはない。
でも、こんなことは、長い人生の中での些細な不幸だ。

家族、友人、やりがいのある仕事。
わたしはたくさんの持ち物の中のひとつを失ったにすぎない。
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