NY・Sentimental

「何飲もうか?」


そこで俺は彼女からメニューを取り上げた。
実は俺はビールばっかり飲んでいるから、ワインにも、シャンパンにも、日本酒にも詳しくない。
ビールの後は、相手に合わせることが多く、アルコールならなんでもいいというのが本音だ。

だけど、なんだかここでカレンに銘柄を決められたり、テイスティングをされたり、なんというか……主導権を握られたくない、と感じている。
そんなことを考えている自分がちょっと不可解だったりもする。
俺はそういうことを気にするタイプじゃなかったはずだ。


メニューを取り上げられたカレンは、不思議そうに大きな目をしばたたいた。
仕事中のカレンは、完璧すぎるほど完璧な近寄りがたい美人だ。
でもこうやって、一応プライベートの時、退社したあとだと、彼女は印象がかなりかわるということを知った。

表情から緊張感が抜けるだけで、こんなに顔つきが変わるんだ、とちょっと驚かされるような柔らかさをまとう。




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