NY・Sentimental

「くどいてんの?」


頬杖をついたカレンが前傾姿勢でかすかに小首を傾げ、俺の目を覗き込む。
ふわりと巻いた豊かな長い黒髪が、肩の後ろから前にこぼれ落ちる。

「それもある」

俺も頬杖をついて前傾姿勢のまま答えた。

額と額の間隔は十五センチ。
反射的に答えてから、え、俺くどいてたっけ? そうじゃなくて、なにか他にカレンに言わなくちゃならないことがあって……。
頭の上空のほうで、ずっと以前から決めていた言葉が渦を巻く。

でも今それを口にすれば、この心地よすぎる雰囲気が壊れてしまうかもしれないというためらいが、俺の思考からその言葉を奪う。

「酔ってるのねセイジ。今のは聞かなかったことにしてあげるから大丈夫」

聞かなかったことになるの?
そうだな。
気がつけば二人でもうワインが二本目。

カレンは俺の言ったことを忘れるだろう。
なかったことになるんだろう。

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