NY・Sentimental

ワインの勉強でもするかな。
酒の種類なんて面倒くさくて完全ビール党の俺が、らしくないことを思う。
カレンの幸福そうな寝顔を見ながら思う。

楽しかった、と言ってくれたのは、優しい嘘じゃないよな、口元のちょっと緩んだその満ち足りた寝顔を信じていいんだよな。
また、誘ってもいいかな。
今度はどんな口実を作ろう。
また契約を取らなくちゃいけないな。

ああ、そうだ。その前に。

「ごめんなカレン」

もう起きている時に謝らなくてもいいかな。
謝るとあの時のことを、本当は辛かっただろう結婚決裂を、やっと自然な笑顔を取り戻した君が思い出しそうで、すごく嫌なんだ。

そうか。それが俺の本音なんだ。
だから謝ろうとすると口がフリーズする。
謝るかわりに、君の後ろで、君を全力でサポートしていいかな。


俺も充分に満ち足りて、ホテルのカレンの部屋のドアをそっと閉め、足取りも軽く自分のアパートに帰った。
マンハッタンの明るい闇が、心に染み入るように優しい。

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