トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~

夫婦以上、恋人未満

 私を部屋まで送るというギルと、手を繋いで廊下を歩く。
 ギルの腕に捕まるか手を繋ぐかの二択を迫られ、こうなった。
 そして『キスの時間』を含むこういった触れ合いは、ミアさんがシナレフィーさんに吹き込んだということが判明。人間の恋愛はこうだと言えば何でもやってくれるのが楽しくて、乙女の夢を詰め込んだとこっそり話してくれた。
 私も、こてこての恋愛物語は嫌いじゃない。寧ろ好き。
 しかも相手のギルは好みの男性だ。最初は戸惑った『キスの時間』が、二回目は既に嬉しかった。果敢にもシナレフィーさんに仕込んだミアさんの勇気には、敬意と感謝しかない。

「ここを曲がれば、サラの部屋がある廊下に出る」

 ギルが飾られた花瓶に軽く触れて、私を見る。
 目印ということだろう。覚えておかないと。ギルと違って、私は瞬間移動なんて出来ないし。

「明日から好きに見て回るといい。覚えるまではリリを連れて行けば迷う心配もない」
「ありがとうございます」

 ギルを見上げて、礼を言う。
 その際に、壁掛けランプが突然点いたのが目に入り、驚いた。

「ああ、それか? 辺りが暗くなったら点くんだ。魔王城は気の利く奴だからな」

 城の方で点けてくれるなんて。部屋の用意といい、ランプといい、何て理想的な住居だろう。

「魔王城のランプだからでしょうか。イスカの村で見た灯りとは、全然違いますね」

 魔王城のものは青白い光を放っている。村で見たものは、黄色味がかった白だった。
 それに一定の明るさを保っているという点でも違う。村のは蝋燭の火のようにゆらゆらと揺れていた。召喚から息つく間もなく森に運ばれたので、じっくりと見たわけではないけれど。

「それは多分……夜光蝶を硝子に閉じ込めたものだな。あれも同胞だから、命が尽きる前に助けたいとは思っている」

 ギルが顔を(しか)める。

「人間の集落には、殺された同胞の血肉が衣類や家具になっているものが、そこかしこにある。気分が悪くなる、長居したくない場所だ」
「う……」

 私は思わず口を手で押さえた。
 ギルの言葉が胸に突き刺さったが故に。

(あああ……素材集めてアイテム作るゲーム好き! 実は全ジャンルの中で一番好き! ごめんなさい!)

 その手のゲームで出て来る素材は、植物や鉱石も勿論あるが、モンスター素材の種類も多い。言われてみれば、モンスターから手に入れるためには戦って倒すわけで。んで、落とすアイテムも毛皮とか爪とかなわけで。つまりそれはそういうことだ。

「悪い、血なまぐさい話をしたな」
「いえ……」

 どちらかと言えば、血なまぐさいのは私の方かと。うきうきで狩りに狩ってました、はい。
 この秘密は墓場まで持って行こう。心に決めた。
< 10 / 106 >

この作品をシェア

pagetop