トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「お前を助けるわけじゃない。これ以上、ジラフの茶番に加担したくないだけだ」
ジラフが出掛けた後、カシムは私を外へと連れ出した。
口調が初めて会ったときと違うのは、先のジラフとの遣り取りからして、こちらが素なのだろう。建物から出れば何のことはない、ここは因縁のあるイスカの村だった。
村の門からすぐにある、森の小道に入る。小石が多く混じった土の道。この世界へ召喚されたとき、輿に乗せられ運ばれたあの道だ。
「竜殺しの剣の台座がある場所に行く。あの場所は魔力を増幅させる作用がある。そこで魔王に呼び掛けろ」
(ギルに?)
後ろから「早く歩け」と無言の圧力を掛けてくるカシムに、疑問に思いながらも道を進む。
ジラフはギルの魔力がまだ効いていると言っていた。けれど、既に魔界に渡ってしまった彼に世界を跨いで声が届くのだろうか。万一届いたとして、私は魔物じゃないから、再会するには彼に来てもらうしかない。
精霊は不安定だという。転移魔法の触媒の一つである百年花も、次に咲くのは百年後……。
(それでも……もう一度会いたいのなら、やるしかない)
グッと両手を握り、気合いを入れる。やって駄目でも、やらないうちには可能性は無い。それならやるに決まっている。
「お前たちが置いていった翻訳された本を見た。今、イスカではそれに則って開発が進められている」
「本当⁉」
実は気になっていたあの本のその後の話題に、思わずカシムを振り返る。
しかし直ぐさまカシムから、「前を向け」とやはり無言の圧力がきた。
「良かった」
仕方がないので、大人しく前を向いてから言葉を返す。
あの建物から出てここへ来るまで、ちらりとだけ村の様子が見えた。確かに忙しく動いている人が多くいて、活気があるように思えた。
役に立ったというのなら、怖い思いをした甲斐もあったというもの。
「良かった……か、お人好しだな。――エリスも、そんな奴だった」
檻に閉じ込められたあのときに思いを馳せていたところを、『エリス』という単語に一気に引き戻される。
(エリス。カシムの妹……)
カシムは妹エリスを手に掛けた。そうなった過程はわからない。
けれど、カシムが覚醒している以上、それだけは紛れもない事実だ。
無意識に速度が落ちていた足を、意識して速く動かす。今度はカシムからの圧力は無かった。
「今思えば、ジラフは最初からエリスに目を付けていた。ごちゃごちゃと言われるのが面倒だと、そのくらいの気持ちで異世界召喚を提案したんだろう。元々異世界召喚は、ジラフの一族がこの世界の人間と子が成せないがために編み出された魔術。俺が一度お前を殺すのに失敗した時点で、とっくにジラフの中でのお前の使い途は変更されていたわけだ」
ザッザッ
小石が多く混じった土の上を、私とカシムが歩く音が森に響く。
「精霊の村へ行く前に、エリスに本を読んでくれと頼まれた。精霊を怒らせてはいけないという、子供向けの絵本だ。俺は何故あいつがそうしたかを考えずに、断った。ジラフに悟られないように、エリスは俺にジラフの狙いを伝えようとしていたのに」
カシムの、話しているようで独り言に感じるそれに、ただ耳を傾ける。
「エリスを貫いた剣の感触が忘れられない、抱き締めた腕から零れていったあいつの命が忘れられない……。エリスを殺したのは、俺だ。あいつの言葉に耳を貸さずそんな事態を引き起こしたのも、あいつを直接手に掛けたのも。エリスを殺したのは、俺なんだ。魔王でも、お前でも、ない……」
深い後悔を感じるカシムの声。彼が口を閉ざした後も、私は何も言えないでいた。
ジラフが出掛けた後、カシムは私を外へと連れ出した。
口調が初めて会ったときと違うのは、先のジラフとの遣り取りからして、こちらが素なのだろう。建物から出れば何のことはない、ここは因縁のあるイスカの村だった。
村の門からすぐにある、森の小道に入る。小石が多く混じった土の道。この世界へ召喚されたとき、輿に乗せられ運ばれたあの道だ。
「竜殺しの剣の台座がある場所に行く。あの場所は魔力を増幅させる作用がある。そこで魔王に呼び掛けろ」
(ギルに?)
後ろから「早く歩け」と無言の圧力を掛けてくるカシムに、疑問に思いながらも道を進む。
ジラフはギルの魔力がまだ効いていると言っていた。けれど、既に魔界に渡ってしまった彼に世界を跨いで声が届くのだろうか。万一届いたとして、私は魔物じゃないから、再会するには彼に来てもらうしかない。
精霊は不安定だという。転移魔法の触媒の一つである百年花も、次に咲くのは百年後……。
(それでも……もう一度会いたいのなら、やるしかない)
グッと両手を握り、気合いを入れる。やって駄目でも、やらないうちには可能性は無い。それならやるに決まっている。
「お前たちが置いていった翻訳された本を見た。今、イスカではそれに則って開発が進められている」
「本当⁉」
実は気になっていたあの本のその後の話題に、思わずカシムを振り返る。
しかし直ぐさまカシムから、「前を向け」とやはり無言の圧力がきた。
「良かった」
仕方がないので、大人しく前を向いてから言葉を返す。
あの建物から出てここへ来るまで、ちらりとだけ村の様子が見えた。確かに忙しく動いている人が多くいて、活気があるように思えた。
役に立ったというのなら、怖い思いをした甲斐もあったというもの。
「良かった……か、お人好しだな。――エリスも、そんな奴だった」
檻に閉じ込められたあのときに思いを馳せていたところを、『エリス』という単語に一気に引き戻される。
(エリス。カシムの妹……)
カシムは妹エリスを手に掛けた。そうなった過程はわからない。
けれど、カシムが覚醒している以上、それだけは紛れもない事実だ。
無意識に速度が落ちていた足を、意識して速く動かす。今度はカシムからの圧力は無かった。
「今思えば、ジラフは最初からエリスに目を付けていた。ごちゃごちゃと言われるのが面倒だと、そのくらいの気持ちで異世界召喚を提案したんだろう。元々異世界召喚は、ジラフの一族がこの世界の人間と子が成せないがために編み出された魔術。俺が一度お前を殺すのに失敗した時点で、とっくにジラフの中でのお前の使い途は変更されていたわけだ」
ザッザッ
小石が多く混じった土の上を、私とカシムが歩く音が森に響く。
「精霊の村へ行く前に、エリスに本を読んでくれと頼まれた。精霊を怒らせてはいけないという、子供向けの絵本だ。俺は何故あいつがそうしたかを考えずに、断った。ジラフに悟られないように、エリスは俺にジラフの狙いを伝えようとしていたのに」
カシムの、話しているようで独り言に感じるそれに、ただ耳を傾ける。
「エリスを貫いた剣の感触が忘れられない、抱き締めた腕から零れていったあいつの命が忘れられない……。エリスを殺したのは、俺だ。あいつの言葉に耳を貸さずそんな事態を引き起こしたのも、あいつを直接手に掛けたのも。エリスを殺したのは、俺なんだ。魔王でも、お前でも、ない……」
深い後悔を感じるカシムの声。彼が口を閉ざした後も、私は何も言えないでいた。