トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
沈黙が続いて暫く、唯一の音だった足音も止まる。
森の開けた場所に出た。中心には、円形の石畳とあの剣が刺さっていた石碑。
ここが目的地、だからもう前を向けとは咎められなかったと思う。けれど、私は結局彼を振り返ることはしなかった。
代わりに、今はもう剣の刺さっていない石碑を見つめる。
カシムに殺されるために連れて来られたこの地で、今度は彼に逃げろと言われているのだから、不思議な巡り合わせだ。
「俺がジラフに、あるだけの知識を、技術を吐き出させる」
石碑の前まで進み出た、カシムの姿が視界に入る。その場で片膝をついた彼のその声は、今度は強い意志を感じるものだった。
「誰もに、『世界が変わった』と言わせてみせる。俺にそれを成し遂げさせたエリスという存在を、誰もが知り、忘れないほどに。それが――せめてもの俺の償いだ」
小さな白い花を咲かせた野草が、カシムの手で石碑の側に添えられる。それから彼は立ち上がり、背負っていた大剣を石碑へと突き立てた。
静かな森、祀られた竜殺しの剣、勇者カシム……まるで、あの日の再来のようだ。
(再来だというのなら)
私は、空を見上げた。抜けるような青い空。
限界まで、大きく息を吸う。
吸って――
「助けて! ギル!!!」
ありったけの大声で、私は叫んだ。
――――ザワザワ
葉擦れの音がする。
それはここへ来るまでも、時々聞こえていた音で。
「……え?」
違ったのは、今はまったく風が吹いていないこと。
ザワザワ
ザワザワ
吹いていないはずの風に、木々が揺れる。
――いや、そうじゃない。
森の木という木を、私が揺らしている。
「⁉」
気付けば、私の身体は発光していた。まさかと思い、地面を見る。
「あ……」
私の足元を中心として広がる魔法陣。それは、見覚えのある淡い光を放っていた。
魔法陣の光が、徐々に輝きを増していく。
地面に立っているはずが、浮いているような、あるいは水面に立っているような奇妙な感覚。
「相変わらず、派手な出迎え方だ」
呆れが交じった口調で言ったカシムを見るも、光の向こうに彼の姿は霞んでいて。
けれどどうしてか私には、見えない彼の表情が初めて笑みを浮かべているように思えた。
「カシム、ありがとう!」
既に輪郭がぼやけた彼に、早口で伝える。
カシムとは色々あった。あったけれど、引っくるめて言うならこれしかない。この世界での出来事を、ギルと出会い彼と在るという結末に集約したのなら。
さらに光が増していく。
カシムは、もはや輪郭さえ見えない。
「そいつに感謝することだな」
そしてカシムの謎の言葉を最後に、私の視界は白一色に染まった。
森の開けた場所に出た。中心には、円形の石畳とあの剣が刺さっていた石碑。
ここが目的地、だからもう前を向けとは咎められなかったと思う。けれど、私は結局彼を振り返ることはしなかった。
代わりに、今はもう剣の刺さっていない石碑を見つめる。
カシムに殺されるために連れて来られたこの地で、今度は彼に逃げろと言われているのだから、不思議な巡り合わせだ。
「俺がジラフに、あるだけの知識を、技術を吐き出させる」
石碑の前まで進み出た、カシムの姿が視界に入る。その場で片膝をついた彼のその声は、今度は強い意志を感じるものだった。
「誰もに、『世界が変わった』と言わせてみせる。俺にそれを成し遂げさせたエリスという存在を、誰もが知り、忘れないほどに。それが――せめてもの俺の償いだ」
小さな白い花を咲かせた野草が、カシムの手で石碑の側に添えられる。それから彼は立ち上がり、背負っていた大剣を石碑へと突き立てた。
静かな森、祀られた竜殺しの剣、勇者カシム……まるで、あの日の再来のようだ。
(再来だというのなら)
私は、空を見上げた。抜けるような青い空。
限界まで、大きく息を吸う。
吸って――
「助けて! ギル!!!」
ありったけの大声で、私は叫んだ。
――――ザワザワ
葉擦れの音がする。
それはここへ来るまでも、時々聞こえていた音で。
「……え?」
違ったのは、今はまったく風が吹いていないこと。
ザワザワ
ザワザワ
吹いていないはずの風に、木々が揺れる。
――いや、そうじゃない。
森の木という木を、私が揺らしている。
「⁉」
気付けば、私の身体は発光していた。まさかと思い、地面を見る。
「あ……」
私の足元を中心として広がる魔法陣。それは、見覚えのある淡い光を放っていた。
魔法陣の光が、徐々に輝きを増していく。
地面に立っているはずが、浮いているような、あるいは水面に立っているような奇妙な感覚。
「相変わらず、派手な出迎え方だ」
呆れが交じった口調で言ったカシムを見るも、光の向こうに彼の姿は霞んでいて。
けれどどうしてか私には、見えない彼の表情が初めて笑みを浮かべているように思えた。
「カシム、ありがとう!」
既に輪郭がぼやけた彼に、早口で伝える。
カシムとは色々あった。あったけれど、引っくるめて言うならこれしかない。この世界での出来事を、ギルと出会い彼と在るという結末に集約したのなら。
さらに光が増していく。
カシムは、もはや輪郭さえ見えない。
「そいつに感謝することだな」
そしてカシムの謎の言葉を最後に、私の視界は白一色に染まった。