トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「わかりました。それならまず、寝て下さい」
「わかった! ……うん? 寝る?」

 力強く即答したギルが、ワンテンポ遅れてから首を傾げる。

「私と同等というのなら、そうなります。私は寝て起きたら一ヶ月経っていたので」
「いやいやそうはならないだろ……、え、()()で?」
「本気で」
「⁉ 寝ている間に、あんなことやそんなことを――」
「少なくとも男性にはされていませんね。ギルの結界で触れませんでしたから」

 私の世話をしていたという女性たちには、身体を拭かれたり着替えさせられたりは、されたかもだけど。起きたときに身綺麗だったあたり。

「そんなわけで、ギルが想像した『辛い日々』なるものは、一つも私の身には起こっていないと思っていいです」

 そう、格好付けて別れたくせに、格好悪いほど何事もなく出戻ってきてしまった。
 まあ、何も無いに越したことはないのだけれど。カシムが来なくても、ギルの結界を頼りに精霊の村まで行こうなんて、結局他力本願な考えだったわけだし。
 寧ろ心配すべきは、ギルの方ではなかろうか。ギルの方こそ不眠不休で作業をしていかねない。
 先程さらりと言っていた、百年花を十年花に品種改良したという台詞。一ヶ月で生物の成長サイクルを九十年もずらすとか、どう考えても簡単とは思えない。これは冗談抜きで、彼を寝かせた方が良い。

「ギルが私の過ごし方を真似ないのなら、私の方がギルを真似します」
「⁉ それは駄目だ!」

 案の定、真似されてはいけない過ごし方をしていたらしい。

「わかった、俺がサラの真似をする!」

 さっき以上に力強く答えたギルが、言うと同時に私を抱き上げる。
 いつものお姫様抱っこ。近くなったギルに、私は楽しい気分でその両肩に手を回した。

「珍しく魔王城が慌てていたので来てみれば、なるほど確かに本物の妃殿下ですね」
「また会えて良かったわ。サラさん」

 そこへ聞き慣れた声が耳に届いて、私はそちらへと目を向けた。
 廊下から中庭へと出て来た、小走りのミアさんの歩調に合わせて、シナレフィーさんもやや大きな歩幅で歩いてくる。
 が、二人がこちらに辿り着く前に、

「悪いが、お前たちのサラへの挨拶は明後日にしてくれ」

 ギルがそう一言。

「俺は今から、サラと寝る」

 続けて、もう一言。
 言い方。その言い方。主に寝るのはギルです、お間違えの無いように。ついでに「明日」はどこへ行った⁉
 そう心の中で即座に突っ込むも、

「それもそうですね」

 納得顔のシナレフィーさんに、

「明後日はゆっくりしましょう」

 「明日」には触れないミアさん。――これは「お間違え」確実なようです。

『まあ、そうなるわな』

 魔王城さん、あなたまで。

「よがっだでずねぇ」

 まだばらけて転がっている涙ぐんだリリに、

『祝いには花だな、それっ』

 蔦の先に花(毒々しい)を咲かせている食人蔦さん。

(ここが好きだなぁ)

 何だか改めて思ってしまう。

「ただいま、帰りました!」

 大きく言った私の声は、今度は魔界の青い空に広がった。
< 103 / 106 >

この作品をシェア

pagetop