トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「しかしカシムの奴、どういう風の吹き回しだ」

 ギルが疑わしいといった感じで言う。
 それはそうなるだろう。ギルからすればカシムとの関係は、『自分を殺しに来た者』で止まっている。かく言う私も、捕まった部屋に彼が現れたときは身構えた。

「えーと……詳しい事情はわかりません。でも、ギルが犯人だと思ったら真犯人がいたみたいな……そんな展開、でしょうか」

 カシムの重い身の上話をいったん置き、さらに物凄く端折るとそうなる。
 そうなるが、やはりこれでは幾ら何でも言葉足らずか。私はそう考え直し――

「よし、じゃあそれは明後日聞く」
「それも明後日なんですか」

 しかしそのリテイクを披露する前に、ギルに先送りにされた。
 お腹にあったギルの手が、私の首の後ろへと回される。

「ずっとサラに触れてなかったから、明日までいつキスをしてもいい時間だ」

 ギルがニッと笑う。
 その笑い方を見るのは久しぶりだなと思っている間に、ギルのキスが降ってきた。
 唇から始まって、髪、こめかみ、頬と辿って唇に戻ってくる。

「ん……ふっ……」

 ゆっくりと割り入ってくるギルの舌に、勇気を出してこちらからも触れに行く。
 ギルが少し驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑む。

「サラも、もっと?」

 一瞬だけ離れたギルの唇が聞いてくる。

(うん、もっと)

 その私の答は、深いけれど穏やかな彼のキスの中に呑まれていった。



「俺たちの子供……卵か人型か、どっちだろう」

 長い長いキスの時間の後、私を抱き寄せながらギルは幸せそうに言った。
 ギルの言葉に、「男の子かな女の子かな」の前にそれもあったなぁと、ぼんやりとしてきた頭で考える。
 ぼんやり。うん……ぼんやりしている。ギルを寝かせるはずが、私の方が寝てしまいそうだ。
 何だかんだいっても、向こうに残されたと思ってからここまで、気を張っていたのかもしれない。

「ん……眠い」

 私の頭を撫でるギルの手に、眠気が加速する。

「おやすみ、サラ。今度こそ、この先ずっと守るから。お前も、この子も」

 心地良い声、温かい腕の中。世界で一番安心できる場所。

「おやすみ……なさい」

 私は大きな多幸感の中、瞼を閉じた。
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