トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
 等間隔に並んだランプを五個程過ぎたところで、ギルは「到着」と立ち止まった。
 そのまま彼が扉を開けてくれる。と、その扉がぶつからないギリギリの位置にリリがいた。

「サラ様、お風呂の準備ができてます!」

 元気に挙手する彼女。
 どうやら一仕事終えた後、ここで成果を報告するため待機していた模様。
 リリがニコニコしながら、部屋の入口から廊下にいる私を見つめてくる。
 そう、私(一応部屋の主)はまだ廊下にいる。
 私は元々お世話をされるような身分ではないから、気にしない。けど、彼女に私以外を持て成す機会が来たとき、この対応では不味いのでは。
 例えばほら、高飛車でボンキュボンな女悪魔とか。はたまた、何でも食べてしまう悪食を極めた巨漢とか。
 リリがお咎めを食らったり、物理的に食らわれたりするのは忍びない。

「リリ。そういった報告は、私が部屋に入った後で教えてくれる?」
「! そうですね。サラ様は、まだ魔王様と一緒には入らないんでした。お一人になってからお伝えした方が良かったですね」
「えっと……」

 その「まだ」というのは、やっぱりシナレフィーさんが基準なのよね?
 いや、そうじゃなくて。そこじゃなくて。

「魔王様のお風呂も準備万端ですよ!」

 あれ、ギルにそんなついでにって感じで言っちゃう?

「おう、じゃあ俺も部屋に戻って入るか」

 んで、ギルもそんな感じで返しちゃう?
 うーん。これは私の要らない心配なんだろうか。でも単にギルが気安いだけな気もする。
 うん、これからも気付いた範囲で彼女に指摘して行こう。
 ぽむ
 不意にギルの手が私の頭に載せられ、私は反射的に彼を見上げた。

「わっ」

 目が合ったギルが、流れるような自然な動作で私の頬にキスをしてくる。
 去り際に彼が言った「まだ、時間は早いけど」という台詞からいって、三回目の『キスの時間』だったようだ。

「サラ、また明日な」
「ま、またっ」

 いけない、うっとりしていた。隣の部屋に入る一歩手前だったギルに、私は慌てて挨拶を返した。
 ギルが片手を上げてみせて、それから部屋に入る。
 そしてリリに目を戻した私は、「サラ様を磨くのもお任せ下さい!」と鼻息を荒くした彼女の腕に、ガッシリと捕まった。
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