トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
「本当は、その図鑑の付箋が貼ってある頁を見ながら、触媒の選別をしてもらおうと思っていたんだ。けど、手に取ってわかるのなら、図鑑要らずだな」

 ギルが私を手招きし、ソファーが置かれた場所へ行く。
 ソファーと対のテーブルから二つの植物を取り上げたギルは、それぞれを片手に持った。
 両方とも黄色の花が咲き、茎の一部が大きく膨らんだ形状をしている。ぱっと見同じに見えるが、こうして見せるということは違うのだろう。
 私は彼の意図がわかり、まずはその片方に手で触れた。

「『マルワウリ』。野菜。食べるとHP微回復」

 現れたアイテム説明欄を読み上げる。
 続けて、もう片方に触れる。

「『トトカウリ』。毒草。魔法の触媒として使用される」
「おおぉ……俺の一時間の格闘が、一瞬で。もうそれだけで食って行けそうな、便利過ぎる能力だな!」

 ギルが感嘆の声を上げる。
 確かに、この能力自体が商売になりそうだ。訓練を積んだプロしか鑑定できないようなものが、手に触れた瞬間にわかるとか。プレイヤーキャラがいつも特別扱いされるのは、もしやこのシステムという名の特殊能力のお陰だったのでは。

(ん? ということは……)

 チラリとミニマップに目をやる。

「ギル。ここの隣の部屋ですけど、倉庫とか宝物庫とかそういうのじゃないですか?」
「ああ、倉庫だな」
「あ、やっぱり。見えるんです、有用なアイテムが収められている箱が」

 そう、見える。目を引いて止まない、皆大好き宝箱マークが。

「え? 見える? どういう状況だ、それは」

 ギルが倉庫がある方の壁を振り返る。

「いえ、壁を透過してという意味じゃなくて。この辺りに自分を中心とした情報付きの地図が、見えるんです」

 私はミニマップがある宙を指差した。
 ギルが私が指差した空中を、目を凝らして見る。

「さっきのギルが探していた本も、それでわかりました」
「俺が何を探しているのかも、知らないのに?」
「はい」
「お前は神か! というか、滅茶苦茶冷静だな⁉」
「私の世界では、割とよく見かける仕様だったので」
「よく見かける⁉ 手に取っただけで初見のアイテムの判別が付くとか、城内配置が筒抜けとか。俺はお前の世界に、絶対に住めそうにない。頭がおかしくなりそうだ」

 ギルが驚愕の表情で頭を抱える。
 何だか元の世界について誤解を与えたようだけれど、まあいいか。

「あっ、そうだ。これって、私がオーブのある村に一緒に行けば、在処がわかるんじゃないでしょうか」
「! 確かに!」

 瞬時に立ち直ったギルが、バッと私を見てくる。

「ただ、ミニマップはオートマッピングで……えーと、つまり実際に歩いた場所とその周辺しか見えなくて。だからある程度、近付く必要があって。近くなら、さっき倉庫を言い当てたように、部屋に入らなくても中にあるのがわかると思うんですが」
「充分過ぎるほどの能力だ。お前がいれば、魔界に帰れる日も近いな」

 上機嫌でギルが、手にした植物を元の場所に戻す。

「ギルの役に立てそうで、良かったです。それでこの籠に積んである植物を、選別すればいいんですか?」
「ああ、左の布に『マルワウリ』、右に『トトカウリ』で分けて欲しい」
「わかりました」

 ソファーに座るよう勧めた彼自身は他へ移ったため、私は二人掛けの中央に座った。
 テーブルの中央にある籠から、中身を一つ摘まみ上げる。
 『トトカウリ』。右、と。

「サラ。夕方になったら、俺と一緒に街に出よう。いいか?」
「視察ですか? お付き合いさせて下さい」

 執務机の辺りから飛んできたギルの声に、私は彼の方を見て答えた。

「あー……うん、そう、視察。よろしく」

 ギルが私を見て、それから左斜め上を見ながら「笑うな、魔王城」と口を尖らせる。例によって魔王城と、テレパシーな会話をしているらしい。
 ギルの声しか聞こえないはずなのに、魔王城は気の置けない相手なのが伝わってくる。どことなく、ギルがやり込められているような雰囲気も。
 私はこっそり笑いながら、選別作業の途中だった自分の手元に目を戻した。
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