トリップしたら魔王の花嫁⁉ ~勇者の生贄にされそうだったので敵の敵は味方と思い魔王に助けを求めたら本当に来ました~
途中、昼食を挟んでも、選別作業はまだ陽の高いうちに終わった。
ギルとしては、数日掛かると思っていたらしい。嬉しい誤算だと言っていた。
今日の予定としても前倒しになったため、まだ人通り(魔物だけど)が疎らな街をギルと歩く。
「どうだ、『カルガディウム』は」
キョロキョロと落ち着きなく歩いていた私に、ギルは歩調を合わせてくれている。
魔王城の城下町――カルガディウムは、遺跡っぽい石畳や建造物で構成された街並だった。
廃墟というわけではなく、元からある遺跡を巧く取り入れた感じの造りだ。RPGで物語の終盤に出て来そうな、高度な古代遺跡なダンジョン。あれを思い起こさせる。
「素敵ですね。こういうの好きです」
地面や壁の石に刻まれた紋様が光っているという、古代遺跡あるあるデザインに、心が躍る。
遺跡系ダンジョンは好きで、ゲームでも大抵じっくり内部を見ていることが多かった。そしていつの間にか近くにいた敵に攻撃され、その音で我に返るという流れまでがテンプレだった。
「わっ、やっぱり見た目通りツルツルした感触」
近くの壁に手を滑らせれば、磨かれた石のような外見を裏切らない触り心地がした。
ゆっくり眺めることができるどころか、こうして触り心地を確かめることまでできてしまうなんて。魔王側に来た役得だ。
「見回り、ご苦労。どうだ街の様子は」
ギルが、衛兵っぽい人狼に声を掛ける。
「これは、魔王様。それが、例の魔物攫いですが、まだ発見できておりません。申し訳ありません」
「いや、先代時代のドンパチのせいで空き家だらけだからな、幾らでも隠れられる場所はある。そう簡単に根城が見つかるとは思ってないさ。引き続き、警戒を頼む」
「はっ」
人狼兵士がギルに頭を下げ、見回りに戻っていく。
「魔物攫いがいるんですか?」
彼がある程度離れたところで、私はギルに尋ねてみた。
「ああ。昔から、卵や毛を採るために特定の種族が攫われることがあるんだ」
「……」
なるほど。ええ、そうですね。攫いました、ゲームで何度も。ごめんなさい。
「それで地方からカルガディウムに呼び寄せたんだが、頻度は下がったとはいえ、それでも魔物攫いの被害は無くならないな」
「魔王城の膝元での犯行となると、取引の価格も高騰しそうです。腕利きがグループを組んでいるのかも」
仕入れが困難な商品を、ギルドが掲示板に依頼を出して、それを冒険者パーティーが受注。調達クエストと呼ばれる類いだ。
「そうか。カルガディウムに移したら、却って腕の立つ奴が集まってしまったわけか」
「それでも人数は少ない方が、被害は抑えられると思います。犯人を捕まえられなくとも、肝心なのは魔物が攫われないことですから。――あれ?」
突然、ミニマップに反応があり、私は立ち止まった。
そちらの方に目を遣ってみる。が、私の背の二倍はある高い壁に阻まれていて、その向こうは見えない。
「ギル。この壁の向こうに大きな建物がありませんか?」
ミニマップで見る限り、平均的な住宅の三倍は大きな建物がありそうなのだが。
「ん? ああ、先代魔王の別邸がある。今は誰も使っていないが。この壁はそこの塀だな」
「えっ、ここからもう敷地なんですか⁉」
何という豪邸。ここから建物までの距離も、住宅五軒分はありますよ。
「別邸がどうかしたのか?」
「多分、そこが魔物攫いの根城です」
「何だって⁉ ――あ、例の情報付き地図の能力か?」
「はい。敵が六人と……攫われた魔物が三体いると思います」
「そこまで予想がつくのか⁉ もう何でもアリだな」
ミニマップに見えるマークの赤は敵で、白はゲストと考えられる。ギルは味方な青いマークで表示されているし、先程会った人狼兵士は白いマークだった。
ギルとしては、数日掛かると思っていたらしい。嬉しい誤算だと言っていた。
今日の予定としても前倒しになったため、まだ人通り(魔物だけど)が疎らな街をギルと歩く。
「どうだ、『カルガディウム』は」
キョロキョロと落ち着きなく歩いていた私に、ギルは歩調を合わせてくれている。
魔王城の城下町――カルガディウムは、遺跡っぽい石畳や建造物で構成された街並だった。
廃墟というわけではなく、元からある遺跡を巧く取り入れた感じの造りだ。RPGで物語の終盤に出て来そうな、高度な古代遺跡なダンジョン。あれを思い起こさせる。
「素敵ですね。こういうの好きです」
地面や壁の石に刻まれた紋様が光っているという、古代遺跡あるあるデザインに、心が躍る。
遺跡系ダンジョンは好きで、ゲームでも大抵じっくり内部を見ていることが多かった。そしていつの間にか近くにいた敵に攻撃され、その音で我に返るという流れまでがテンプレだった。
「わっ、やっぱり見た目通りツルツルした感触」
近くの壁に手を滑らせれば、磨かれた石のような外見を裏切らない触り心地がした。
ゆっくり眺めることができるどころか、こうして触り心地を確かめることまでできてしまうなんて。魔王側に来た役得だ。
「見回り、ご苦労。どうだ街の様子は」
ギルが、衛兵っぽい人狼に声を掛ける。
「これは、魔王様。それが、例の魔物攫いですが、まだ発見できておりません。申し訳ありません」
「いや、先代時代のドンパチのせいで空き家だらけだからな、幾らでも隠れられる場所はある。そう簡単に根城が見つかるとは思ってないさ。引き続き、警戒を頼む」
「はっ」
人狼兵士がギルに頭を下げ、見回りに戻っていく。
「魔物攫いがいるんですか?」
彼がある程度離れたところで、私はギルに尋ねてみた。
「ああ。昔から、卵や毛を採るために特定の種族が攫われることがあるんだ」
「……」
なるほど。ええ、そうですね。攫いました、ゲームで何度も。ごめんなさい。
「それで地方からカルガディウムに呼び寄せたんだが、頻度は下がったとはいえ、それでも魔物攫いの被害は無くならないな」
「魔王城の膝元での犯行となると、取引の価格も高騰しそうです。腕利きがグループを組んでいるのかも」
仕入れが困難な商品を、ギルドが掲示板に依頼を出して、それを冒険者パーティーが受注。調達クエストと呼ばれる類いだ。
「そうか。カルガディウムに移したら、却って腕の立つ奴が集まってしまったわけか」
「それでも人数は少ない方が、被害は抑えられると思います。犯人を捕まえられなくとも、肝心なのは魔物が攫われないことですから。――あれ?」
突然、ミニマップに反応があり、私は立ち止まった。
そちらの方に目を遣ってみる。が、私の背の二倍はある高い壁に阻まれていて、その向こうは見えない。
「ギル。この壁の向こうに大きな建物がありませんか?」
ミニマップで見る限り、平均的な住宅の三倍は大きな建物がありそうなのだが。
「ん? ああ、先代魔王の別邸がある。今は誰も使っていないが。この壁はそこの塀だな」
「えっ、ここからもう敷地なんですか⁉」
何という豪邸。ここから建物までの距離も、住宅五軒分はありますよ。
「別邸がどうかしたのか?」
「多分、そこが魔物攫いの根城です」
「何だって⁉ ――あ、例の情報付き地図の能力か?」
「はい。敵が六人と……攫われた魔物が三体いると思います」
「そこまで予想がつくのか⁉ もう何でもアリだな」
ミニマップに見えるマークの赤は敵で、白はゲストと考えられる。ギルは味方な青いマークで表示されているし、先程会った人狼兵士は白いマークだった。